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└alice 

└alice:火アリ/パラレル


火村が甘くなったと聞いて私は早速彼の下宿先に向かった。
彼の誕生日には散々とやりたい方題されたのだがーちなみに精子工場長は復活済みだー
今日は、私の誕生日。今日ぐらい私が楽しんでも構わないだろう。そんな野望も持ちつついざ彼の部屋へ。

「火村ぁ~~」
にやにやと笑みを浮かべながら私は勝手知ったる火村の部屋に入る。部屋に入ったとたん、多分私も発してたであろうあの甘い匂いがした。自分で思っていたよりもその匂いが強いものだったので少し吃驚した。

ーこれは、噛み付きたくもなるー

美味しそうなのだ。目の前の人物が。正確に嗅覚にその匂いがこびりついて美味しそうと認識させられる。

「ほんま、うまそう……」
「アリス、よだれ」
慌てて、自分の唇の端から出ていたものを服の袖で拭う。
そして座っていた火村に近寄ってくんくんとその匂いを嗅いでみる。

「これはまたえらい甘ったるいなぁ……」
「アリスの時もそんな感じだったぜ?自分ではあまりよくわからないな」
そう苦笑しながら火村はいう。
そうだ私の時もちょっと匂うなぁぐらいに思っていたのだ。


火村の場合、朝起きたら猫達ー瓜太郎と小次郎と桃だーに舐められて起きたという。
あまりにもその舐め方が異様だったので自分でも舐めてみたら甘くなってた、ということらしい。そこで私に一報が入ったのだが……。
うう、私も猫に舐められれば森下君に噛み付かれる事は無かったのに……。

「なぁ、なぁ、キスしてみてもええ?」
前に私が感じた火村のキスを思い出す。こいつ程うまく出来ないが今ならこの甘さに便乗して火村を打ちのめさせられると思ったのだ。
たまにはこういうのもいいだろう。
それにあの時の私みたいに食されていると思わせてみたかった。

「なんだか、アリスから誘われると新鮮だな」
くくっと笑うと火村はこいよ、といって膝立ちしている私の少し長く伸びた後髪に指を通す。
ちょぉ、まて、今日は俺が堪能する番なんや、と云いながら体勢を立て直す。
火村のほっぺたを両手で軽く挟んで自分の方へ引き寄せる。
そっと口付けて…………

……甘い。

うわっ。甘い。

めっちゃ、甘い。

これはちょっと、あかん。

そっと触れただけなのにその強烈な甘さに頭が参ってしまう。くらくらするという表現が一番正しいと思う。

甘すぎやっちゅうの………。

そして…いつの間にか声を挙げているのは自分の方で、結局はいつもの通り事は進んでしまった。

良く考えたら私は火村と違って強烈に甘いものは好きではない。甘いものより酒だ。

「いや、今日も素晴らしい誕生日だったな?アリス」
全然素晴らしくない。
結局火村の発する甘い匂いに参ってしまい、身体を彼に預けてしまった。
甘いものに襲われて、窒息しそうだった。
まるであの夢じゃないか。俺は全然嬉しくないぞ。

ーせめて酒臭かったら良かったんや……ー
そしたら喜んで彼の精子工場長をノックアウトさせてたはずだ。

ー…でもなんや…それも微妙に嫌やな………ー

「う~~俺もう帰る!」
そう云うとさっさと服を着て部屋を出ようと引き戸に手を掛けた。
あ、待てっ、と云っている火村にもお、帰るんや~!といってお構い無しに勢い良く開ける。

………………よく考えた方が良かったのだ。
どうして部屋の窓を締めっぱなしにしていたのとか、朝、甘いという事にどうやって気付いたのか…。

引き戸を開けた先には刺客が三人いてー正確には三匹いてー一直線に駆けていった。
まだ服も着ていない火村に。

朝よりもきっと強烈になっているあの甘い匂い。
人間でも思わずがぶりといってしまうのだ。
ー森下君で検証済みー
舐められるだけじゃ済まないだろう。
あ、と思った時には遅かった。

数日後、火村は甘いのはもうこりごりだと歯形だらけの顔でぼやいていた。

 

 
「The sweet day on the firstーalice- 」05/04/19