スコバツ的2
「雨が降るな」
「雨?」
そう、と云うとバッツは空を見上げた。
空には雲ひとつなく、快晴そのものだった。
「さっさと済ませて戻ろうぜ」
「な、云った通りだろ」
バッツが云った通り、快晴だった空に暗雲が立ち上がり探索を中止しざるをえなくなった。古ぼけた建物の軒先に非難をし雨が過ぎるのを待つ。 軒先まで若干の距離があったものの、雨は暖かく体感温度は先ほどの快晴時と変わらない様にスコールは思う。
「雨、嫌い?」
眉間の皺、と云うとバッツは笑った。そんな彼をスコールは一瞥すると空へと目を向けた。
勢いが止まる事のない雨は、激しい音を立てて地面に音を落としていく。
「……鬱陶しい」
「雨の方はそんな風に思われたい訳じゃないんだろうけどなー。だって憂鬱だって感じるのは気持ちの問題で雨にとってみれば特に他意はないだろうしなー」
「……雨は大気中の水蒸気が――」
「ははは。硬いなぁ、スコールは。こんな風に考えた方がちょっとは楽しいだろ」
大口を開けて笑うバッツを横目に、スコールは少しきまりが悪くなる。 通用する道理すら彼の言葉によって、何時だって柔軟な方向へと導かれる。
「いや、でもさ解るよ。その気持ち」
擽ったそうに肩をならして笑うバッツは同じように空を見上げた。
「確かに濡れると鬱陶しいし、身体も冷えるしな。病気にでもなったらたまったもんじゃない」
そうだな、とスコールは小さい声で答えると古ぼけた建物へと背中を付けた。同意ともとれない様なスコールの答えに軽く肩を上げてバッツは反応を返すと、同じように背を建物へと預けた。
激しい音を立てていた雨は次第に弱まっていく。
「もうすぐあがるな。良かったな、スコール」
機嫌直せよ、とスコールの頭へ手を伸ばして、髪の毛をくしゃりとするとバッツは顔を綻ばせた。瞬時にその手を振り払い、反応を返したスコールは睨みつけるようにバッツを見据える。
「あんたは何一つ解ってない。この間から――」
「じゃ、スコールは何を解っているんだ」
飽くまでも静かに言葉を返すバッツに、スコールは言葉が詰まった。
「それに、雨の話だろ?」
にっこりと微笑むバッツにスコールは、泣いてしまいそうだ、と思う。
例えば、今ここで彼の肩を掴んで抱き寄せても、この間のように誤魔化されるのは目に見えている、とスコールは思う。単純に行動に移せばそれが叶うわけでもない。言葉にしたってその言葉の気持ちを汲んでそれなりに扱われるだけだ。
気付いてしまった彼の誤魔化しは高い所で維持されており、それを自分が崩せるものではないとただ再確認をさせられただけだった。
「……」
「スコール?」
弱くなっても降り止まない雨へとスコールは向かうとひたすら前へと足を進めた。
暖かい水滴は髪を湿らせ、頬を通りすべてを流す。バッツの言葉や仕草一つで痛いぐらいに内では疼いているのに、その先へと踏み入れる事を許されない。
「好き」
何時の間にか隣に来ていたバッツの一言で暖かいと感じていた水滴は一瞬にして冷たいものへと変わる。
「おれも雨に打たれるの、好き」
――じゃ、スコールは何を解っているんだ
地に足を下ろしているのに、その感覚が初めからなかった様な眩暈を覚えスコールは立ち往生をしてしまう。
(何を……)
足を踏み出そうとしても、そこに地がなければ踏み出せない。
(解っているんだ……?)
落ちる。視界が歪む。地面の匂い。水溜り。弱くなった雨音。
「スコール!」
スコールが視界の端で見た雲の切れ間からは小さな光線が放射線に散らばっており、彼方から雨が上がるのを予想させた。
- 2011/05/31 21:13
- DFF・FF
- Comment(0)
- Permalink