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■双子麻衣「無題」後編

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「え、ナルいないんですか?」
 はい、とリンは答えた。
「しばらく自宅で仕事をされるそうです」
 そうですか、と麻衣が云うと、リンは軽く会釈をして資料室へと行ってしまった。
 完璧に避けられている、と麻衣は思う。以前はどんな問題が麻衣とナルの中であろうが、ナルは平然と仕事をし、麻衣を空気の様に扱った。
(空気にもしたくないって……)
 正直に云えば、麻衣達の関係は曖昧なものだった。ナルに手を差し出され、ジーンに導かれ、何時の間にかこの双子の間に麻衣はいるようになった。でも一方は『現実』に存在していて、もう一方は『夢』に存在をしている。
そしてこの二人に対してまったく恋愛感情が無いという事はない。特にジーンに関しては勘違いしていたものの、ずっと恋焦がれていた。特殊な出会いと繋がりだからと揶揄される事もあるが、もう恋だ愛だ、とか、そんな次元では無いのだと、麻衣は思う。
ナルに関してもそうだ。ナルなりの優しさというものを身を持って実感している。だから今まで傍にいれたのだ。
 一時期、麻衣とジーンは繋がりを持てなくなってしまった時期があった。麻衣自身ではどうしようもなく、ただ時間が立つのを待っていた。そんな時にナルは珍しく麻衣に声をかけ自分の仮説を話してくれた。――まったく答えの無い、未完成の話だ。
 あのナルが……と、思った反面、もしかしたら、と、思う所も麻衣にはあった。
 もしかしたらナルは自分と同じようにジーンに会いたいのではないか。そんな思いを持っていた麻衣はこっそり綾子に云った事がある。
『あの合理的な優しさの持ち主のナルがねぇ。雹でも降ってくるのかしら。ああ、でも研究対象としては面白いんじゃない?』
『研究対象かぁ……』
 そんな風に云われても違和感がない所がナルらしいと思う。
『もしそうだったら、あんたとは論点が違うって事じゃない』
『あ、でもあたしとジーンが会えれば……』
『そうそう、あんたはあんたの目的を果たすし、ナルはナルの目的を果たすじゃない。ね、とっても合理的。だから……まぁ……』 
 言葉を濁す綾子。
『どちらにしても、その後はどうなるかわからないわよ』
 何時までもお互いにこのままでは居られないでしょう、と釘を刺された。
 結局、しばらくしてから麻衣とジーンは再会をした。そして念のため、ナルにも報告をした所で暗雲が立ち始めたのだ。日増しに機嫌が悪くなり、助言らしいものを云われた。
『傍観者でいろ』
 深入りはするな、と。
 その時はナルの言い方に腹が立ち、口答えをしてしまった麻衣だが、今ではその優しさが身にしみる。



 今日の仕事を仕上げると麻衣はナルの住むマンションへと向った。ナルのマンションへ来るのは初めてだったが、残業をするというリンに、今すぐナルに確認をしてもらいたい書類があると云って、地図を書いてもらっている。麻衣はマンションの前に着くと、ナルの部屋番号を押した。不思議なものだと思う。何年も傍にいるのに、初めての事がまだあるなんて。
 インターフォンからは不機嫌なナルの声が返って来た。
『……はい』
「お疲れ様です」
『……帰れ』
 ある程度予想をしていた返答が返ってくる。
「嫌。話があるのっ」
『話なら事務所で』
「じゃリンさんに頼んでここの鍵、貸してもらう。部屋の鍵も貸してもらって勝手に入る」
 麻衣は自分でも相当無茶苦茶な事を云っていると思う。
『……』
「あたしは今、正当な方法でナルに会おうとしているの。それをわざわざ不当なやり方で入って欲しい?」
『僕にも予定というものがある。今、それを無視してでも麻衣に会う必要はない』
「……今はあるよ」
 あたしから逃げないで、と喉の奥から搾り出した声はとても小さく響いた。
 しばらくすると、カチっと小さな機械音を立てて、エントランスホールへと続く扉が開いた。


 リビングへ通され、初めて入るナルの部屋は想像をしていた通りだと、麻衣は思う。生活感がなく、殺風景で必要最低限しか物がない。ここで主張をしているものは本や書類の束だけだ。――多分何処の部屋も同じなのだろうと思う。
「手短にしろ」
 ナルはきょろきょろと部屋を見渡していた麻衣にそう告げるとソファへと腰を下ろした。麻衣も距離を開けて座る。
「ええ、っと……」
 ジーンがね、と云った所でナルに睨まれたような気がする。
「見てみぬ振りはもう出来ない、って云っていた。それがね、どういう意味を持つものなのか、あたしにはわからなかったんだけど」
「僕が知っている訳がないだろう。話は終わりだ」
 そう云うとナルは腰を上げた。
「え、ちょっ」
 まだ終っていない、そう云いながら麻衣はナルの腕を掴もうとした。
「触るな」
 まただ。
「やっぱり……」
 伝わるんだ。
 どうして自分から伝わるジーンを拒否するのだろう、と麻衣は思う。
双子は双子で顔を合わせていると聞いている。時期や時間はまちまちだけど、彼らは彼らなりに接触をしているはずだ。むしろ麻衣よりも繋がりは深く、ジーンの「その時期」というものもナルの方が明確に感じ取っているはずだ。――ただナルが意識をしなければジーンとのホットラインは成功しない。
「ねぇ、どうしてそこまで」
 はっきりと言葉にしなくても、ナルの表情を見ていると問題はそこにあるのだと分かる。
 ナルはまたソファに腰を下ろすと、諦めたように顔を伏せて小さく呟いた。
「ジーンを……見たくない」
――笑ってる、話をしている、動いてる。
 麻衣から伝わるジーンは鏡越しで見るジーンとは違う。
「まるで」
――まるでそれは生きているみたいじゃないか。
 吐き出すようにナルから出た言葉。それは麻衣も同じように感じ取っていたものだ。
「生きてるよ、あたし達の中で…」
 ナルは、ふっ、と鼻で笑うと麻衣を見据えた。
「って、これは詭弁」
 『夢』はいつか覚める。
「あたしは見届ける覚悟が出来たよ」
 覚める為に『夢』を見続ける。
「ナルはどうする?」
「……どうもしない」
「じゃなんであたしを傍においてくれるの?」
「……」
 馬鹿な女だと、ナルは思う。係わり合いを絶とうとすれば出来るものを、麻衣はしない。――また麻衣のそういった感情はこれまで調査を通して散々みてきた。
 発端は単純なものでそれがここまで展開をするとは思ってもみなかった。ジーンはともかくとして、自分と居て利益なんてものは皆無なのに、必死にしがみついてくる。
 放っておいて欲しい、と望む反面、それが無くなってしまうもの残念に思う気持ちは何故だろう、とナルは思う。――それはお互いに不足している部分を求め合おうとする一種の幼児性なのか。
「ナルは傍観者でいろ、って、深入りするな、って云ったけど、もうそんなの無理だよ」
 知ってしまったもの、と麻衣は云う。
「怖い? あたしのこと?」
――あたしも怖いよ。これからの事が。
「でもね、あたしだけじゃないって知ってる」
――知ってるよ。


 天井にあるシーリングファンの音がやけに耳につく。
「こんな事をして、何の意味がある」
 麻衣に勢い良く抱きつかれたナルはソファに身を委ね、パタパタと良く回るシーリングファンをみていた。
「だって、あたしとナルしか知らないんだよ?」
 過去はともかく、今とこれからの未来を見届けられるのは自分達だけしかいないじゃない、と麻衣は云う。
「それに……」
 麻衣はナルの肩に顔を更に埋める。
「ナルの事、嫌いだったらここまでしない」
 手を、道を。
「ずるいと思う。二人とも」
 差し出され、導かれてここまで来てしまったのだ。今更引き返す事なんてできない。
「責任とって、なんて云わない。けど、最後まで一緒に居させて欲しい」
 ナルは、変わらず肩に顔を埋めて話す麻衣の髪の毛に指を通すと少し力を入れて引き寄せた。
「いつまでこうしているつもりだ」
 麻衣が小さく笑うのが解る。
「そりゃ、ナルの機嫌が直って、あたしの頭に置いてある手を外してくれれば」
 くだらない、とナルは云う。
 髪の毛に添えられた手は相変わらずで、麻衣はまた小さく笑った。





個人的にいつまでたってもナル視点は難しい。
ナル→ジーン←麻衣の図式が好きなのと愛だ恋だなんだとそういう次元を超えてしまった部分も自分の中にあるので萌え萌えな感じじゃなくて申し訳ないですが、こういう変なのもあってもいいかな!と…





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