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■双子麻衣「無題」前編


オフで出そうと思っていた漫画のネームより。お蔵入り決定なので小説にしてみました。オフよりもオンで出すほうがすごく恥ずかしい人なので恥ずかしいぃぃ!自分キメェ!な感じなんですが、双子麻衣の妄想は好きです…!と曝け出す。結構適当な事かいてますのでその辺はなんとなくでお願いします…







「怖い? あたしのこと?」
 静まり返った部屋で麻衣だけの言葉だけが響く。
――あたしも怖いよ。これからの事が。
「でもね、あたしだけじゃないって知ってる」

――知ってるよ。

 反論する為に動かした口は音を発する事無く、本意なんてものは他人になど解らないのだと、ナルは口を噤む。

――ナルがどれだけジーンを愛していたか。

 そんなものは麻衣の都合のいい幻想だ。
 麻衣に何が解るのだ。自分達の事など一つも解りはしない。他人が、何も知りえない他人が、こうやって土足で入ってこようとしている。
否、既に自分はそんな他人を一旦は受け入れてしまったのかと、ナルは思う。
過去に麻衣へ差し伸べた言葉は、似た生い立ちからの一種の同情でそれ以上でもそれ以下でもなかった。重なる偶然が必然となり、こんな脅威になると思ってもみなかった。
「……」
『こんな脅威』という、あまりにも違和感のある言葉に自然と笑みが零れる。
「いつまで」
 ナルが発した静かな音に麻衣は顔をきょとんとさせた。
「いつまで……」
 真っ直ぐ目線を向けてくるナルに、麻衣は目をほころばすと両腕を勢いよく伸ばした。


 ナルの目の前に広がる、柔らかい茶色。その先に見える天井にはシーリングファンがパタパタと回ってくる。


――傷を舐めあうような、こんな行為に何の意味があるのか。


***


「なんだ、この書類は。初歩的なタイプミスと文法ミス」
 渡した書類をすぐさまナルに放られる。麻衣は机の上に散らばったその書類を伏せ目で見ながら心の中で溜息を付いた。
ナルの機嫌の悪さは今に始まったことではない。腹たたしくても素直に謝り、やり直して再度提出すれば小言は云われても良しとされる。下手に刺激をしない方がいいと、ここ数年で学んだ。
「……すいませ……」
「加えて、解読力のなさ」
「……すぐにやり直します!」
 ナルは、思い切り頭を下げた麻衣を一瞥すると
「話にもならない」
 と云って部屋を出て行こうとする。まさに吐き捨てたと云ってもいい。
 ここ数年でナルの機嫌にも耐え、学んだ麻衣だったか、流石に血の気の多さはあるリミットを過ぎれば振り切れてしまい、一言でも云っておかないと気がすまない。
「あのさっ! ナルっ、そういう言い方は――」
 麻衣の横を通って部屋を出て行こうとするナルの腕を掴もうと手を伸ばした時だった。
「触るな」
 ナルはまだ掴まれていない腕を放ると威嚇するかのように麻衣を睨んだ。普段にも増してその目つきが鋭く、麻衣は一瞬にして萎縮してしまう。
「ご、めんな……さい……」
 パタン、と閉じられた扉の音が大きく響き、行き場の無い手を伸ばした麻衣だけがそこに残された。

「って!」
 そこは『夢』と云うには曖昧な所――正確に云えば『場』なのかもしれないが。
ひっそりと繋がれるジーンとの『夢』に麻衣は居る。今ではある程度コントロールがきく様になり、相手であるジーンが『覚醒』をしていれば繋がる事が出来る『夢』――『場』。昔に比べて、繋がる頻度は少なくなったものの、こうやって会うことが出来る。
ジーンには時間の感覚というものが既にない状態だが、彼曰く常に繋がっている状態だと云う。だからある程度、自分の分身でもあるナルや巻き込んだ――ジーン曰く――麻衣の状況などは覚醒をしていなくても、おぼろげながら把握している。
「まぁまぁ」
 麻衣は上手くジーンに繋がった事を一通り喜び、近状報告も兼ねて話をしていたが、昨日の事となるとフルフルと腕を震わせて、あの行き場のない手を押さえるのが必死だったと説明した。
「そりゃナルはさ、元々そういう……手とか身体とか触られるの好きじゃなかったけどさ! 最近あからさますぎんのっ」
 手振りも交えて訴えてくるそんな麻衣を相変わらずな姿勢で見ていたジーンは笑みを零していた。
一通り麻衣が話し終えた所で、一呼吸おいてジーンが云う。
「脅威、なんじゃないのかな?」
「なにそれ。意味がわからない……」
麻衣は怒っていた反面、実はそういった態度に傷ついてもいる。もう何年傍にいるのか、ナルにもそろそろ解ってもらいたい。
「麻衣はさ、初めて僕達のホット・ラインに入ってこられたし、ある意味、今の僕達を繋げているのは麻衣でもあるわけだ。……といっても僕が勝手に麻衣を中継地点にしちゃってた訳けど。ナルは今こそ意識してサイコメトリ出来ないようにしてるけど、まれに感じ取っちゃう時があるんだよね」
「え! じゃ……」
「そうなると麻衣というより、僕かなぁ……。残留思念が意思を持ったみたいなものだし。僕そんなに嫌われる事したかなぁ」
 ジーンは小さく溜息をつく。
麻衣はジーンに気づかれないように目を泳がすと小さく呟いた。
「……兄弟だからこそ、かもしれないね……」
 ジーンの定義が未だはっきりしないが、確実なものはあると、麻衣は思う。
自分達は既に大人の領域に入ってる。ジーンは幾ら経っても16歳のままだ。だがそれは、感じ取っていても口には出せないし、出したくない。
「そろそろなのかもね」
「そ、そんなことないよ! 前にナルが云ってたじゃん。一時期あたしとジーンと会えなくなった時に……」


――ナルとジーンには昔から放送局と受信局があってお互いに交し合う事が出来るということ。
――今もそれは可能で、あたしにもそれは可能だということ。
――あたしとジーンは今、座標というものがずれてうまく交し合えないという事。

『座標って…あれって夢じゃないの?』
『飽くまでも僕が立てた仮説だが、この僕達がいる世界は空間三次元に時間一次元、つまり四次元時空。物理的四次元の世界だが、ジーンのところは四次元空間、または五次元空間に近いところかもしれない。何かしらのアクシデントでジーンが居たところ、つまり座標がずれてしまったのかもしれない』
『よ……よじげん……? 二回云っていますが……ごじげん……?』
『三次元を超える空間は僕達生きている人間には感知も干渉も出来ない。空間と時空はまったく意味が違う』
『はぁ……?』
『もし三次元を超える空間だったとしたら、数学的なx,y,z軸に何か別な軸が発生している事になる。それを麻衣は今まで視覚的に認識していることになる』
『あの、物理とか数学とか、わっかんないんですけど……』
『身体がある世界が三次元。こころがあるところが四次元ともいわれているな。まぁ、「こころ」というものには単位がないからありえないことだが』


「うーん、まぁそう云っていたけど、ありえないんだよね。何処にも器はないし、そもそも定義がはっきりしないし。僕がその第一号だとしても、僕からは証明のしようがないんだよね」
 研究していた本人がこんなんじゃ、ねぇ? と同意を得るようにジーンが麻衣を見る。
そんな目で見られても麻衣は困る一方だ。もしかしたら……、と思わず口に出しそうになった麻衣は慌てて言葉を飲み込む。
――この双子はお互いに解っているんじゃないのか。時期が来ている事が。
 麻衣は消沈したように顔を伏せると、向かい合って立っているジーンに両手を握られた。
ジーンの手は相変わらず、暖かさも冷たさも感じる事は出来ず、だからといって無機質な訳でもない。確かにここにあってここない、この感覚はいつも不思議に思う。
「ねぇ、麻衣」
 顔を上げてごらん。
 ふんわりと笑みを零すジーンを見ていると、いつも通りの笑顔に自然と麻衣も笑みを作ってしまう。
「もう何年かな? 麻衣と会ってこうやって話して、手とか繋いじゃってさ」
 あ、キスもしちゃった。とおどけて云うジーンが切なくて愛おしいと麻衣は思う。
「あ、あたしは」
 泣いてはいけないと思いつつも、麻衣の視界は次第にぼやけていく。
――ナルに手を差し出され、ジーンに導かれ、そして自分はその先を望んでしまう。
 なんて貪欲な想いなのだろうと思う。
「――っ」
 頬を伝う涙は止めようと思っても止められず、流れるままに麻衣の眸から零れ落ちた。
「泣かせたかった訳じゃないんだよ。あと巻き込んでごめん、って云うと麻衣は怒るかもしれないけど、僕達の事に巻き込んでごめんね」
 麻衣は小さく頭を横に振る。
 麻衣の手を握っていたジーンはその手を麻衣の腰に周し、強く抱き寄せた。一気に距離は縮まり、ジーンは麻衣の肩に顔を埋める。
「この先、意味があるとしたら、それはナルと麻衣なんだよ」
――僕は初めから通過地点でしかないんだよ。
 耳元で小さく囁かれたジーンの言葉は痛いくらいに麻衣の胸に響く。
「……諦めちゃうの?」
 顔を上げたジーンは頭を横に振った。
「そうだとは云いたくないんだけど、僕が望んでしまったら今の自分を否定する事になるだろう?そうなってしまったらどうなるか麻衣も良く知っているよね」
 僕はまだ僕で居られてるから大丈夫だと思うけど、と云うとジーンは笑った。
「君たちはきっと今の僕の末路を知る事になる」
 だから、それまでもう少し――
「もう少しだけ、一緒に居てくれると嬉しい。終るのが解ってて一緒にいて欲しいって本当に我侭なお願いなんだけど、こうやってまた麻衣を泣かせちゃうかもしれないけど、少しだけ」
 懇願するようにジーンはまた麻衣を抱きしめると、背中に回した腕に力を入れる。
「……」
 麻衣は何時だったか、綾子に云われた事を思い出した。
『――男が少しでも怖気付いた時には、女がハッパかけるしかないのよ』
 先を望んでいたのは少なくとも麻衣だけではないと、背中に回された腕からも感じる。それがたとえ同じ立場で叶えられるものではないとしても。
 腹を括る。そんな言葉が一番しっくりとくる。
「泣いてごめん、もう大丈夫」
 麻衣も同じように、ジーンの背中へと手を這わせる。するりと力強く。たくさんの意思を込めて。
しばらく抱き合って、自然とお互いの腕を緩めると向かい合った瞬間に唇を這わせた。
小さなリップ音を立てて、吐息が触れ合う。
「麻衣は暖かくていいなぁ」
 少し照れくさいがジーンに自分の体温を伝えられる事が嬉しい。
「ねぇ、もうちょっと……してもいい?」
 頬に添えられたジーンの手はやっぱり不思議な感覚でしかないが、自分の体温をもっと感じてもらえるように麻衣は頬を摺り寄せた。


「ナルも見てみぬふりは出来ないって」
――わかっているはずなのにね。


 ジーンがその『夢』の最後に呟いた言葉は自分に対してなのか、それとも……。その答えを聞く前に麻衣は意識を手放した。
「……ん……」
 麻衣の目の前に広がるのは、学生時代から住んでいるアパートの天井だった。古いが住み慣れた自分の部屋。いつも『夢』から覚めた後はほんの少しだけその天井が更に古く見える。夢とのギャップのせいなのか、一気に『夢』から『現実』へと切り替わる。
「仕事、行かないと……」
 呆けた頭で起き上がると、ジーンに触れられた箇所を一つ一つ思い出し余韻に浸ってしまう。それが名残惜しくないと云えば嘘になるが、もう麻衣は『現実』に足をつけている。歩き出さなければならない。
「よし……っと」
 身支度を整えて、玄関のドアを開けると何処から金木犀の香りがした。




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