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土方×妙「 恋愛スピリッツ 」

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土方×妙「 恋愛スピリッツ 」

2009年12月冬コミで出した土妙小説です。沖神含む。ちなみに銀妙も好きなんです…





「それ以上近づいたら殴りますよ」
「これから抱こうっていう女を目の前にしてそりゃ無理な話だな」
土方の吐き出すタバコの煙が宙に舞う。部屋は暗く、隣の部屋に置いてある小さな行灯だけがその存在を示していた。妙も土方も畳に敷いてある布団を挟んでそれぞれ離れて座っており、お互いの存在は形でしか確認ができない。
これ以上暗くなるはずがないのに、妙は自分に掛かる暗さを感じた。
「怖い?」
土方の形が歪んで見える。
「答えをやろう」
妙の目に、闇が訪れた。


「……ん……」
1月1日、新年の朝。障子から差す、晴天の清々しい光とは反対に嫌な夢を見た。
(元旦の初夢が……よりにもよって……)
思わず握った拳に力が入る。本当によりにもよって、だ。初夢で土方との情景を見るなんて……。
(初夢が台無しじゃない……)
年の瀬か、この所誰もが忙しく過ごしており、妙は土方とはおろか新八にもろくに会っていなかった。   
忙しい事は自分にとっても、万事屋にとっても、真選組にとっても良い事だと妙は思う。忙しい内は何も考える必要がない。煩悩が動かなければ正しい姿勢のままでいられる。何時だって形が崩れるのはそれのせいなのだ。
廊下を走る音が聞こえた。
「姉上、起きていますか?」
障子越しに新八の声がする。弟の新八は昨夜行われた万事屋の忘年会に出ていた。妙は仕事の為、途中参加をするはずだったが、仕事を終えてもその場には行かなかった。
「起きてるわ。支度が終ったらお台所にいくから」
「あ、はーい」
今年―正確には去年になるのだが―を振り返る必要があった。
誰もいない道場で一人、この場に土方も居て、酒でも酌交わせれば良かったのに、と思ったことを思い出す。
(だからあんな夢を見るんだわ……)
支度をして障子を開けると、地面に浅く雪が積もっていた。太陽の日に反射した雪が光っている。


「姐御―!」
 おせちを詰め終わった所で神楽が訪ねてきた。
「神楽ちゃん、早かったわね。それじゃ着付けしちゃうわね」
妙はそう云うと神楽と共に部屋へ戻る。最後に過ごすお正月だから着物を着て迎えたいと予め神楽に云われていたのだ。
「私のお古で悪いんだけど、可愛いのたくさんあるわよ」
「別にいいアル。でも、どどーんとド派手にお願いするネ」
「そうね……」
神楽が地球に来てから数年。
月日が経つのは早いものだと妙は思う。神楽と出会った頃はお互いに若く――今でももちろん若いが――小さい妹が出来たように思っていた。
―――地球を出ようと思うネ。パピーと宇宙を回ってハンターになるネ。兄貴の事もあるし…
―――…そう
小さいと思っていた妹は今、飛び立とうとしている。

妙は予め出しておいた着物を神楽に見せた。姿見に映し、色を合わせていく。
神楽が気に入ったのは朱色に牡丹や小花が散りばめている色鮮やかな着物だった。簪も着物に合わせ牡丹と花弁が付いているものにした。
髪の毛を一つにまとめ、セットをしていく。
「また戻ってくるんでしょう?」
「うん」
「身体に気をつけてね」
「うん」
髪の毛のセットを終えて、肌襦袢と裾除けを羽織らせる。
「……姐御も」
腰紐を締めると妙の小さな妹は微笑みながら云った。
(小さな兎の背中には羽根が生えている)
「……そうそう、後で屯所の方に一緒に行きましょうね」
「えええええ~~」
「嫌?」
「嫌っていうか…。あ…姉御はなんか用アルカ?」
「そうね。……陣中見舞いかな?」
「……なんか、怖っ!」
「ふふ」
飛び立とうとしている神楽を見て、妙はそれがひどく羨ましくなった。
神楽は明日発つ事になっている。


「明けましておめでとうございます」
「おめでとうアル!」
「銀さん、おめでとうございます!」
妙達は万事屋へと来ていた。
「おめっとさん……」
まだ寝ていたのか、銀時は欠伸をしながら妙達を迎える。視界がクリアになった所で、銀時は神楽がじっと自分を見ているのに気付いた。
「おー神楽。いいもん着せてもらったじゃねーか」
「可愛いアルか?」
「か~わ~うぃ~い~」
銀時の普段と変わらない言動に妙は安心感を覚える。やはり自分が可笑しいのだ。神楽が地球を発つと聞いて羨ましく思うのは。
「お。お妙さんも今日は一段と……」
銀時の目線が妙に変わる。気持ちを見透かされているようだと、妙は思う。
銀時のフットワークの軽さは今までの付き合いで心得ている。ただそれに手を出すか出さないか、出すとしたらどのタイミングかは未だに読めない。
「褒めてもおせちしかでませんよ。お台所借りますね」
銀時の目線から逃れるかのように台所へと妙は向かった。
「おせ……ち……」
「大丈夫です。僕が作って姉上が詰めました。……一部アレですけど」
「アレってなんだよ……!」
正月早々地獄に逝きたくねーよ!、と銀時は新八にこっそり叫んだ。


食卓に並ぶ色とりどりの料理。重箱に敷き詰められているそれらは目を楽しませ、銀時達の舌を満足させた。新八が作ったおせちはどれも絶品で楽しい宴の始まりだった。
 あまり視界に入らないようにしていた一部を除いて。
「いやー、新八君。知ってたけど料理上手いね。このまま嫁に出せるよ、うん。銀さんが保障するよ、うん」
「嫁ってなんですか、嫁って!」
「や~ね、銀さん。新ちゃんは男の子ですよ~。ささ、どうぞこっちも食べてくださいね」
 妙の発言で銀時は息を止める。妙の持っているそれは、今まで視界に入れないように努めていた重箱だ。   
中には黒く焦げたモノが入っている。
「今日はすっごく上手くできたんですよ~。どうですか?銀さん」
 不穏な空気の中、ニコニコと笑顔の妙。銀時はその重箱の中に入っているモノが、どれぐらいの破壊力を持っているのか身を持って知っている。
「……お……お妙さん、詰めるの上手いっすね」
「喧嘩売ってるのか、コラ」
 妙は、食わんかい、と云うと重箱の中に入っている黒く焦げたものを掴む。それを口に押し込まれそうになった銀時は必死に口を死守している。
銀時と妙のやり取りを見ていた新八は大きいため息をついた。
「あー!もう、二人とも!お正月なんですから、今日ぐらい静かに過ごしましょうよ!ね、神楽ちゃん。……神楽ちゃん?」
 神楽は顔を伏せて黙々とおせちを食べていた。ゆっくり口に含み、咀嚼していく。それが喉に通った所で箸を置いた。
「おいしーアル。皆で食べるの、本当に幸せアル」
 神楽は伏せていた顔を上げると、えへへ、と云って、目尻に薄っすら浮かべていた涙を拭った。
 そんな神楽にすっかり毒気が抜けた妙と銀時は座りなおし、銀時は風呂敷から綺麗な模様が描かれている杯を取り出した。
「まぁ門出を祝うにはちょうどいい日じゃねーの?神楽」
銀時は、ほれ、と云うと、手にした杯を神楽と新八に渡す。
「……良い年になりますように」
 妙は用意していたお屠蘇を杯へ注ぐ。神楽は神妙な顔つきで杯を両手で持ち、軽く口を付ける。
それを見届けた銀時は少し微笑むと
「それじゃ、改めて明けましておめでとう!」
 と云った。


午後になり、神楽と妙は陣中見舞いと称した重箱を持って万事屋を出た。薄っすらと雪が積もる道を歩いていると、妙は仕事明けの朝を連想させる。 
妙は仕事明けの人通りがない瞬間の空気が好きだ。仕事が終って家路につく間の道をわざと遠回りして歩く時もある。ただ通勤する人々が通る時間帯になると、一瞬にして気持ちが冷めてしまう。好きだったあの空気も、普通の物となって、早く家に帰りたいと思ってしまう。
「姉御。着いたアルよ」
ああ、そうだ。隣にはまだ、神楽が居たのだ。


屯所に着くと近藤が真っ先に出迎えた。
「し……新年早々……奇跡……が……」
この近藤からストーカーを受けている妙は、飽くまでもニコニコと笑顔で答える。
「まぁ。大げさな」
にこやかな表情とは裏腹に右手は拳を作り、いつでも繰り出せるようになっている。
「おっ妙、さ―――」
何時もの通り近藤が妙に向かえば、何時もの通り妙もそれに答える。傍からみればコントのような光景だが始ってしまえば終るまで―近藤が朽ちるまで―誰も手を出すことは出来ない。
玄関での騒ぎを聞きつけてか、奥から沖田が顔を出した。
「チャイナ?」
「お、おぅ!」
相変わらず隣では近藤と妙がもめているが、それは日常茶飯事なので気に留めることなく二人は会話を続ける。
「それ、どうしたんでぃ?」
「姉御に着させて貰ったアル」
「そうかい」
沖田は息を一つ呑むと神楽の目を見て云う。
「……行くのか?」
「……ん」
神楽はこの地球に来てから自分に近い知人は沖田だけだと思っていた。年だけいえば新八が一番近い「人間」なのだが「天人」に近い「人間」という意味では――飽くまでも「人間」だが――沖田はぴったりとはまる。犬猿の仲といえども実力となるとまったく別の話なのだ。癪に障るが神楽は認めざるを得ない。
だからこそ、妙がここに自分を連れてきた理由も分かる。
「まぁもう少ししたら行くアルよ。だからちょっと顔出したアル。……心配するナ!私は可愛くて強いからナ!」
変にカラ元気な神楽に沖田は無言で、そして意思を込めて神楽の頭に手を置く。
神楽はその感覚を隅々まできちんと覚えておこうと思った。
初めて沖田に好意として置かれた手。


近藤は口に黒く焦げたモノを突っ込まれ気絶していた。一仕事終えた妙は隣の二人を見て、会わせて良かったと思った。
少なくとも二人には通じる所があり、二人にしか分からない気持ちがある。妙が土方と幾度も体を重ねるように。
「天気も良いし、お参りでもしてきたら?」
妙は二人に提案をしてみた。背中を押さなくても「外」へ出る決意をした妹に一つ背中を押してみる。
行く末はわからないが、今日というこの日が未来へ繋がればいいと妙は思う。
「姐御はどうするアルか?」
「私?私は……」
奥から盛大に歓声がわいた。言葉になっていない音が妙の耳を突く。
「家に帰るわ」
今日もお仕事だし、と妙は云うと
「また明日会いましょう、神楽ちゃん」
と約束をして屯所を後にした。

妙は家へ戻ると仮眠をして、スナックすまいるへ向かった。正月でも夜は相変わらずで、かぶき町は賑わっている。
二時を回ったところで土方が訪ねてきた。訪ねてきたというより、忘れ物を置きに来たといった方が正しい。
「昼間、置いてったやつ」
と云うと重箱を妙の前に出した。妙が昼間、近藤への陣中見舞いと証して持っていた重箱だった。中身は近藤へ突っ込んでいたが、すっかり重箱の事を忘れていた妙は丁寧にお礼を云う。
「一杯飲んでいきますか?」
 ああ、と云うと土方はソファに腰を下ろす。
素直だな、と妙は思う。既に客がまばらになったすまいるは閉店準備に取り掛かっていた。 
妙はボーイに焼酎を頼むと土方の隣に座る。黙って煙草を吸っている土方を、横目で見ると随分会っていない様に思う。会おうと思えば昼間、屯所で会えたはずだが会う理由がなかった。ボーイが焼酎を持ってくる。
妙は少し可笑しくなって笑った。
「なんだよ、急に……」
「いえ、別に」
神楽の背中は押したのに、自分の事となるととんと駄目だと、可笑しくて笑ってしまった。進んだところで何も見出せない事を知っているからだ。
「それで、今日はどうしますか?」
笑って誤魔化してしまえば後は何時もの通りになる事も知っている。
「…付き合えよ」
「はい」


最近のホテルは合理化していてとても良いと妙は思う。すべてがカラクリによって整備されていて入りやすい。無機質で清潔な明るいロビーに、感情のない機械音。部屋は逆に雰囲気を重視しており、様々な演出がされている。妙が何時も選ぶ部屋は決まっている。
廊下は足元に小さい明かりが付いているだけで、妙は目が慣れるまで軽く眩暈を覚える。薄暗い中、ぼんやりと浮かぶ土方の後を続いた。
部屋は二間で入ってすぐに小さい行灯が一つ。付いている灯りはそれだけで、隣の部屋の枕元に手動で付けられる行灯が置いてある。
勝手を知っている土方と妙はすぐに隣の部屋へ向かい、立ったまま抱き合った。
それは性的な欲求で求められた行動ではなく、むしろ挨拶に近いものだった。
会う理由がないと思っていた妙は「こうしたかったから」という理由をそこで見つけた。
土方とは「先」は無いが「今」はある。
なんて愚かで浅はかで単純な思考なんだと、年が終った日に思い、年が始った日にそれを求めていた。それは今果たされ、妙の中で少し余裕が出来る。
「明日、神楽ちゃんが地球を発つんです」
「総悟から聞いた」
そう、と妙は云うと土方と目線が合うように顔を上げる。
「……どうしてかしら。私はそれがひどく羨ましくなったの」
見つめ合う形になった土方と妙はしばらくそのままでいた。
「それは……」
目線を逸らしたのは土方だった。
「それは?」
「……羨ましいからだろう」
先ほど妙が云った事がそのまま返ってきて思わず妙は笑ってしまった。
「そうですね。羨ましいんだわ。私はここ――江戸――の女だから」
この先ここから出ることはないですから、と云うと土方の背中に添えていた手を離した。
「もしこの先、土方さんがここから出て行ったとしても私はきっと羨ましいと思いながらここにいると思います」
目線を逸らしていた土方は妙を見る。その仕草に妙は首を傾げた。土方は何か云いたそうに口を動かすが結局何も紡げず、煙草を取り出して部屋の隅に座った。土方が煙草に火を付けたところで、妙も土方と対極になる様に隅に座る。
「……チャイナのあれだけど」
土方の吐く煙が宙に舞う。
「寂しいとかそういった類じゃねーの」
揺れる煙をぼんやり見ながら妙は自分の失言を悟った。
「あ、あの、神楽ちゃんのはそうだとしても、さっきのはそういう意味じゃないですから……」
「……そういう意味って?」
「だから、そ、そういう意味です」
土方が肩を震わせて笑っている様子が伺える。形でしか捉えられない土方の様子を見ながら妙は笑って誤魔化すことが出来なかった。隣にいれば、にっこり笑って――目は笑っていないが――会話を〆る事が出来るが、顔が見えない相手に向かってそれは出来ない。妙は顔が火照ってくるのがわかった。
「素直に云えば、ちぃっとは可愛げあるのによ」
「だから違います」
「本当に可愛げがねぇな、お妙さんは」
「しつこいですよ」
土方がからかっているのがわかると、妙から火照りが消える。
「さっきのは撤回します。土方さんがここから出る事もないでしょうし、私もいつかは結婚しますし。それに例え、土方さんが云う様に寂しいって思ってたとしても私は……」
貴方を待っているなんて事出来ません、と妙は云った。云った矢先に更に失言を悟った。これでは完璧に土方のペースに乗せられていると妙は思う。何をどうさせたいのかわからないが、土方のペースに乗せられるのは気分の良いものではない。
契りの約束があるわけでもないのに、物分りのいい大人を装ってホテルに入って、子供みたいに土方のペースに乗せられて。でも会う理由や、今ここに土方が居る事、それに対して切に願っていた事を再確認して満足している自分もいる。
土方が動く気配がした。妙は身構える。
「それ以上近づいたら殴りますよ」
「これから抱こうっていう女を目の前にしてそりゃ無理な話だな」
土方の吐き出すタバコの煙が宙に舞う。煙草を灰皿に捻じりこみ、土方は腰を上げた。
「怖い?」
土方の形が正確に見えてくる。
「答えをやろう」
妙は迫ってくる土方を見上げて、早く抱き合いたいと思っていた。

「土方さん、煙草一本貰えます?」
事を済ませ、長襦袢だけを羽織って座っている妙は、隣で横になっている土方に云った。土方は丁度煙草を1本手に持ち、口に咥える所だった。
「未成年に吸わせる煙草はねーよ」
第一、おまえさん煙草嫌いだろうが、と怪訝そうな顔をして土方は云う。
「今までナニを突っ込んでおいて、今更な事云ってるんですか」
「……おいっ!」
「ただの興味本位。それだけですよ」
それだけ云うと、妙は土方が持っていた煙草を取り、ライターへ手を伸ばした。妙の手が届く前に土方の手がライターを掴み、妙の前に差し出す。
「たまにはいいですね、こういうの」
「俺は知らねーからな」
土方はライターを鳴らして火をつける。ついでに自分の煙草にも火をつけた。
妙は煙草に口を付け、一度吹かす。煙草に火が移った所で一気に吸い込むと、咽返ってしまった。苦い味が口の中に広がる。
「っ……」
妙は咽返りながらも少しずつ煙草を消化していく。土方は咽返りながらも煙草を吸う妙を見てひどく罪悪感を感じた。
ままごとみたいな自分達になんの意味があるのだろう。堕落していくのなら自分ひとりでいいものを目の前の女を飲み込んで、更に手まで貸している。
少女だった女が女になる。元々無垢な少女とは云い難かったが、出会った頃から今日までの妙とは明らかに違うと土方は思う。
懸命な女だと思っている。だから軽口を叩いていなければ飲み込まれてしまう。自分が優位に立たなければ、妙という存在を自分の中で確立してしまう。
下らないプライドが、妙に拍車を掛けている事を土方は知らない。
「ひどい味」
「だから云っただろう。しらねーよ」
土方は勢いよく妙の胸倉を掴むと口を這わせた。
ひどい味だと云ったそれは口を合わせても消えない。それでも妙は悪くない一服だと思った。


結局神楽との約束は果たせなかった。
相変わらず部屋は暗いが、掛け時計は既に十一時を指しており、神楽がターミナルから発つ時間になっていた。
時計を見てから、妙は寝返りを打って土方を見る。頭の下に敷かれていた土方の腕を戻すと、まだ眠っている土方に軽く抱擁をして支度をする為に立ち上がった。
結局自分達には「答え」はないのだ。
その時々の答えは出せても、答えを事実として認める覚悟もない。会えば愛し合えるのに、神楽との約束すら破れるのに、その愛すら捻じ伏せて無かった事にしてまた愛し合う。
逃れる術も知っているのに、知らないフリをして終われないハッピーエンドを続ける。
妙はまだ寝ている土方の顔を一瞥するとホテルを後にした。


「姉上!遅いですよー。神楽ちゃんもう行っちゃいましたよ!」
ホテルに居た時点で分かっていた事だったが、妙がターミナルに着いた時には既に神楽は発っていた。
「ごめんなさい。お仕事が終らなくって……」
ああ、着物が前日と一緒じゃないですかー!と騒ぐ新八を横目に、妙は神楽が発った後の空路を見つめた。
小さい妹は発った。
妙は前ほど神楽が羨ましいとは思っていなかった。土方の言葉を借りればそれは「寂しい」という事になるが、やはり「羨ましい」という気持ちに近いものだと妙は思う。
飛び跳ねて何処でもいける神楽と、ここ――江戸――の女であると自覚している妙。
土方と日々重ねる小さな答えを欲して、ここに居ることを望んでいると云っても過言ではない。
結局の所、土方に義理立てをする必要もないのに、妙は律儀に、そして切に思っている。
(もし、ここから私が出て行ってしまったら)
土方は絶対に追い掛けて来ないと妙は思う。
(だったらここに居る方が断然いい)
答えはでてしまった。
「いっちゃいましたね。神楽ちゃん」
寂しくなりますね、と隣に来ていた銀時に云う。
「まーな。んでもお妙さんや」
「はい?」
「おたく全然寂しそうに見えないけど?」
にやりと笑う銀時に妙は一瞬、肘鉄を食らわせようかと頭に過ぎったが止めた。
確かに寂しくはない。ただ羨ましかった。
「寂しいですよ」
妙は銀時に向かって微笑むと、空路を背にして歩き出した。
生まれ育った町に、土方の居る町にこれから戻るのだと思うと、どう考えても後者の気持ちの方が上回る。
「あーあ。誰か私をここから連れ去ってくれないかしら」
なんて他人本意。そうでもなければこんな滑稽な気持ちは終らせられない。
「男の趣味が悪いからなぁ~無理じゃね?」
今度は上手く銀時に肘鉄が当たった。





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