スコバツ的1
視界が回った。
自分のベッドであるはずのそこは、二人分の重さに小さく音を鳴らした。陽は落ち、窓からは夕闇が訪れている。カンテラに火を点そうとしてベッドサイドに寄った途端に視界が回った。
(さっきまで何を話していたっけな……)
たわいのない話だったとバッツは思う。天井をぼんやりと見つめつつ、視界の端に映る黒い髪の毛が自分の頬に触れて少し擽ったい。意外とサラサラとしているんだな、と場近いな感想を思い浮かべながらもこうなった原因をバッツは考えていた。
(怒らせるような事とかあったかな……)
例えば、昼間ジタンと行った悪ふざけが過ぎた、とか。
例えば、必要以上にスコールに接してしまった、とか。
考えれば考えるほど窘められても仕方がない事が――抑え目に考えても――多々思い当たる。
(それにしても、だ……)
ベッドに押さえつけられて窘められる事など今まで一度もなかった。バッツの両手首を握っている手は力一杯に握られている。
「あの、スコール?腕ちょっと痛いんだけど……」
「……」
「ええっと……なんかこういうのってどうやって抜けだそうか考えちゃ――」
「黙っててくれないか」
ようやく口を開いたスコールだったが、一言云うとまた口を噤んでしまう。
「……」
バッツは云われた通りに口は閉じたが思考は回る。幸いにも自分の足の間の浅い所にスコールは居る。
捕まれている腕を軸にして、両足でスコールの腰を上手く掴めれば、翻してマウントポジションを取れるかもしれない。また同じように腕を軸にして頭突きでも食らわせれば、怯んだ時に体制を翻す事が出来るかもしれない。
(根本的な解決にはならないけど、実力行使するなら――)
バッツは小さく息を呑むと捕まれている手に少し力を入れた。
「嫌なら」
「ん?」
「そう云えばいい」
スコールは項垂れていた頭を上げてバッツを見据えた。自然と見詰め合う形になったが、バッツは視線を泳がせると瞳を綻ばせた。
「や、そんな事はないけど何かなーって。こういう風にふざけ合うのも好きだけどさ、おれ」
「あんたは何時だってそうだ。そうやって誤魔化そうとする」
バッツはきょとんとしたようにスコールを見ると小さく笑った。
「……誤魔化そうって何を?」
(そんなの)
「……」
「スコール?」
(気付かなきゃ良かったのに)
スコールはまた顔を俯かせると、手を離してバッツから離れた。
その行動が少し可愛く見えて、思わずまた小さく笑いそうになったバッツだったが、多分こういった些細な言動がスコールにとってみれば癪に障るのかもしれないと思う。
少し赤みを差した腕を擦りながら、目だけでスコールを追う。
スコールが背を向けて毛布を被ったのを確認すると、バッツは勢いよく立ち上がり、彼の肩を掴んで仰向けにさせると腰を両足で抱え込むようにして馬乗りになった。
「マウントポジションはちゃんと取らないと」
馬鹿だなスコール、と云うとバッツは暗い表情を浮かべて、それでもスコールを見据えた。
――必死に、気付かれないように笑って誤魔化して、これみよがしに繕ってきた余裕なんて、相手が気付いてしまったら成立なんてしない。